石井宏史 展
BREAKING NEWS
2014年7月9日(水)〜8月10日(日)
opening reception: 7月 9日(水) 19:00-22:00
TRAUMARIS|SPACE
TRAUMARIS|SPACEでは急きょ無名の新人作家、石井宏史(1979年生まれ)の個展を開催することになりました。
茨城県出身の作家は、現在も地元でマイペースの制作活動を続けています。
彼は近年、ネットやテレビなどの媒体において、集団心理というものが思いがけない力でマイナスの方向に働いたときの嫌悪感をモチベーションとして、絵画を制作しています。
それは一見写真のコピーに見えるほどの、写実的で精緻、かつ明快なドットで構成されたイメージですが、実は雑誌やウェブ上の写真をもとに、極細の筆記具による点描で描かれた絵画です。
最近、チャットレディと呼ばれる、しろうとの一般女性(に見える女の子)が自分の個室(に見える部屋)でプライベートな生活を送る様子をえんえんと配信するサイトがネット上に蔓延しています。視聴者(主にオタク的な男性)がそれにツッコミや問いかけ、誘いなどを投入し、ときにコミュニケーションが成立します。さらには金銭や物品をプレゼントするボタンが用意されているなど、なかにはこれを生活費の収入源にしている女性すらいるとも言われます。
《チアリーダー》シリーズでは、匿名の女性をめぐるそのような現象において「集団的精神のなかでは批判能力も個性も喪失して無意識的性質が圧倒的になる」(『群衆心理』ギュスターヴ・ル・ボン)状況を、アメリカの雑誌で見つけたチアリーダーのポーズをモチーフとして、象徴的に描いています。
また、新しいシリーズ《Breaking News》では、テレビのニュース映像において、キャスターを媒介とした集団心理の交錯をモチーフとしています。
「事件があってニュースが伝わるよりも、ニュースを作るために事件がねつ造される時代」(『幻影の時代』ダニエル・J・ブァースティン)
ここでは、宗教、政治,社会問題などをめぐるキーワードが巧みにそのメッセージに取り込まれ、メディアに載せて配信されることによって、知らず知らずのうちに動かされているというような、情報操作による集団心理と行動に力点を置いています。個(事実)が先か、集団(媒体)が先か、その錯誤を端的に表したこのコメントは、チアリーダーシリーズと重なるところがあります。
世界中で日常的に起こっている暴動やデモなど、個が群れになったときの異様さが気になったこと。集団行動のなかでの対話にストレスを感じること。
そういった些細でありながら見過ごすことのできない感覚がこのシリーズのきっかけになってます。
そのほか2つのシリーズが出展されます。
料理、手術、土木工事、美術品の取扱、変態、犯罪まで、自分の「手を汚さず」効果を得るさまざまな場面で使われる、レザー・ゴム・ビニールなどのぬめっとした素材感の手袋をモチーフとした《Glove》シリーズ。
手袋は、手を保護するため、あるいは衛生を保つためなどに使われます。作家はそれが命を救うとき、人を殺すときといった対極の目的で使われることに興味をもちました。脱いだ後も手の形がそのまま残るその造形にも、この不気味な一貫性は反映されています。
《Gum wrapped in silver foil》シリーズは、噛み終わったガムを包んだ紙をモチーフにした小品です。
風呂敷に代表される「包む」という行為は、品物の形状と、そのもの自体に宿る奥行きを楽しむ日本文化のひとつともいえましょう。
本来の目的を終えた使用済みのものが、かえって造形に奥行きが生まれてビジュアル的に良くなるところがおもしろいことに作家は着目しました。
ぜひともご来場いただき、各種メディア、ブログ、Facebook、Twitterなどで、
広報周知にご協力をどうぞよろしくお願い申し上げます。
アートプロデューサー・ライター
TRAUMARIS主宰
住吉智恵
会場:
TRAUMARIS|SPACE
〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿 1-18-4 NADiff apart 3F
TEL:03-6408-5522
開館時間 16:00 - 24:00(日曜:14:00-22:00)
休館日:月曜日(カフェは月・火定休日)
http://www.traumaris.jp
e-mail:info@traumaris.jp(担当:住吉)
ご掲載等のお問合せはこちらまでお願いいたします。
Profile
石井宏史 HIROFUMI ISHII
http://www.thehandpoint.com/
1979生まれ。文化服装学院卒業。
鉛筆、ペンなど、さまざまな技法で作品を制作している。
グラミー受賞経験のあるhiphopグループTHE ROOTSや、
「purple fashion」誌 編集長/アートディレクターOliver Zahmにより
その作品が高く評価された。
recommendation
ファウンド・フォトを元に制作した石井宏史の「Cheerleaders」シリーズを初めて見たとき、とても奇妙で不思議な印象を受けた。
集団における群集心理を題材としたこの作品は、一見すると写真をコピーしたような質感に見える。しかし注意深く見てみると、それは緻密でメカニカルな筆致の点描であることに気づく。
無数の点で構成されたドローイングは、陰影や輪郭が手描きとは信じられないくらい滑らかで美しい。作家のステートメントによると、チアリーダーのような集団における個の精神は「批判性や個性さえも喪失して無意識的な傾向が圧倒的に強くなる」という社会心理学者ギュスターヴ・ル・ボンの分析に強い影響を受けているという。
石井の作品は、ファウンド・フォトをそのまま複写したりデジタル加工してプリントするようなタイプの写真家とは大きく異なる。
むしろタルボットが制作した世界初の写真集『自然の鉛筆』を連想させる。文脈が欠落した現代のファウンド・フォトのイメージを利用して、極小のドットをひたすら無心で打ち続ける。そんな石井の制作態度は、画家というよりも近代写真術の父が発見したモノクロームの原初的な世界に回帰していくようである。
Nahoko Yamaguchi