小木曽瑞枝「花蜜標識 ネクターガイド」

 

小木曽瑞枝「花蜜標識 ネクターガイド」

12月3日(金)〜1月30日(日)

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 昆虫やハチドリが花の蜜に吸いよせられるのは、

 蜜の匂いや花びらの色のせいだけではないらしい。
 

 ”花蜜標識”(Nectar guide)。
 

 それは蝶やミツバチに蜜の場所を知らせるための、花びらの目印。

 紫外線を感知することのできる昆虫だけにわかるサイン。

 中央の花弁は紫外線を吸収して黒っぽく見え、

 花のほかの部分は紫外線を反射して光って映るそうだ。
 

 小木曽瑞枝は、甘い蜜を隠した花や毒キノコの鮮やかな自然色、

 造花や砂糖菓子の毒々しい人工色に、吸いよせられる。

 「体に悪そうだけどおいしそう」な色を探すため、森にはいる。

 その道々、見つけた秘密の花園の場所を心の奥にしまい込む。
 

  「スウェーデンのヨーテポリに滞在していたとき、

  地元の人たちにとってキノコ狩りは秋冬の季節の日常でした。

  自分たちが見つけたおいしいキノコの生える場所は人に教えず、

  内緒にするのがならわしでした。

  森には、刺されると抜けなくなって死に至るダニもいて、

  日常には死の影も潜んでいたのです。

  とくにおいしかったキノコの名は『タラッラ・カンタレーラ』。

  呪文のようなその名を口にするたびに、

  死と背中あわせのほろ苦い味を思い出します」

  (小木曽瑞枝)
 

 映画『太陽の帝国』(S・スピルバーグ監督)に、

 収容所を出た人々が競技場で、富裕な家族から没収された

 贅沢な家具やきらびやかな調度品の山に遭遇するシーンがある。

 「お腹の足しにはならないのに、なぜか引きよせられるこの美しさは

 いったいなんなのか。その高揚感を自分の視座で見つけたい」

 と小木曽は言う。
 

 人工色と蛍光色を効果的に使った小木曽の作品は、

 可愛らしさやポップだけでない、僅かな毒を含んでいるからこそ魅惑的だ。

 この冬、TRAUMARISの乳白色の空間はビビッドな色彩の光で満たされ、

 そこに居る人の感情をほのかに高揚させることだろう。

 (住吉智恵 アートプロデューサー/ライター)

 

 PROFILE

 小木曽瑞枝 MIZUE OGISO
 

 日本大学芸術学部、東京芸術大学大学院修了。

 2007年より2年間のスウェーデン滞在を経て、

 現在東京をベースに国内外で活動。風景の観察を通した独自の視点で

 物語を構築し、ファンタジーとリアリティーの狭間にある世界を、

 平面と立体を構成したインスタレーションとして発表する。

 主な展覧会に2003年「ProjectN」オペラシティアートギャラリー(東京)、

 2009年「Get Set」Virserum Art Museum(スウェーデン)、

 「ヨーテボリ・ビエンナーレ・サテライト」Gallary Konstepidemin

 (スウェーデン)、2010年「ポーラミュージアム アネックス展 2010

  "祝祭”」ポーラミュージアムアネックス、

 「深海の庭」 ユトレヒト、「日々観光」 IDEE自由が丘店、

 SUNDAY ISSUEオープニング企画展 「森へはいる」。

 「花蜜標識 ネクターガイド」 TRAUMARIS|SPACE (以上東京)