10/20 住吉家、長女もも(享年14歳、パグ)

 

 

我が家の老犬「もも」が今朝、天に召されました。

「クロワッサン」誌(マガジンハウス発行)

2011年6月11日発売の犬特集
『聞いてください、
私と犬とのささやかな話』に
寄稿したエッセイを特別に転載させていただきます。

 


 

2012年10月20日(土)

住吉 智恵

アートプロデューサー

 

 

R0011228.JPG

 

 そのパグの子犬に会った瞬間「もも」とい

う可憐な名が浮かんだ。

 生後6ヶ月までペットショップで売れ残り、

叩き売りにされていた、そのやせこけた風貌

を見て、せめて桃のつぼみのようにふんわり

と育ってほしいという祈りだったのかもしれ

ない。

 室内で粗相をする度、お尻ぺんぺんすると

怖がってぷるぷる震えているのだが、床に降

ろしたとたんに忘れてはしゃいでいる。

 犬の本など読むと、パグの性格は「朗らか

で人の気を引くのが大好き。少々頑固だが天

真爛漫で素直」とベタ褒めだが、この凹まな

さを見ると「売れ残ったのはやはりちょっと

足りないからでは…」と思うのであった。

 爆食のおかげでコロコロ太り、パグらしさ

を身につけた彼女は、散歩中もお尻をプリプ

リ振って歩く快活な足取りで、すれ違う人を

「ブス犬萌え」させた。体の割に足が細くO

脚のため、だらしなくズレた尻餅をつく、い

わゆる「パグ座り」。走りだしても10mで歩

き出す。

 友人とピクニックなどすれば、レトリーバ

ーのミムちゃんは投げたボールをノーバウン

ドでキャッチして喝采を浴びているのに、も

もはといえば人様のつまみを狙っているだけ

で、全く「駒沢公園映え」しない。

 家飲みにきたアーティストや編集者たちに

は愛想の良さで可愛がられ、話に夢中になっ

ている者のグラスを空にするわ、飲み疲れて

雑魚寝が始まれば、しっかり男子のお腹でお

やじ並みのいびきをかいている。

 

 

R0011235.JPG

 

 見合いもしてみた。美術作家・中ザワヒデ

キ、もとみやかをる夫妻の、今は亡き、ぱ

ちょ&ぽんちょという、ゴツいパグ兄弟に、

家中追い回され、逃げ惑っていた。犬の自覚

がないものとみえ、処女なのに想像妊娠で乳

首が肥大化したこともある。

 それ以外は病気らしい病気もなかったが、

震災後、突然肝機能が悪化し、緊急入院した。

地震のとき、家で独りだったことがよほどこ

たえていたのか。

 思えば都知事選と原発問題をめぐって、母

と私が大げんかしたとき、傍らで目だけで交

互に2人の顔をうかがっていた。未曾有の事

態はノンキなおばちゃんパグにも大きなスト

レスだったのだ。

 翌日急速に元気になり、帰りたがってうる

さくてかなわないから、と獣医から退院の連

絡があった。

 パグの顔の構造は人間と近く、表情で会話

さえできるともいわれる。それだけに鈍感そ

うに見えても、人の表情や仕草、口調を読み

取る感受性も強いのだろう。

 子供は親の鏡。犬は飼い主の鏡。

 ももの困ったようなしわくちゃ顔を見ると、

私は自分自身の心映えを鑑みるようになった。

 

 

R0011237.JPG